グリーフケアの風景

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活動報告 グリーフケアの基礎知識

若い世代を置き去りにしないために

若い世代を置き去りにしないために

こんにちは。グリーフ専門士、寿月です。
早いもので今年も12月を迎えました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。
家の近くに大きな公園がありまして、その一角が森のようになっているのですが、私は木漏れ日を浴びながらその木々の間、道なきところを歩くのが大好きです。木々は季節ごと、年ごとにその形や色を変えながら居続ける。カンカン照りの日も雨の日も。
そんな姿が生き方のお手本のように思えることがあります。

それでは今日も書き進めて参りましょう。

死を語るのは生を語ること

若い頃は、多くの人にとって死は遠いものです。また、歳を重ねた立場からすると、若い世代には死がいつまでも遠いものであってほしいと願う気持ちもあります。
ですが大切な人や身近な人の死は、当然ですが時期を選べるものではありません。誰かの死など想像すらしないはずの年齢であっても、その死と向き合わざるをえない状況になってしまうことがありますね。

私自身、母を亡くしたのは20代中頃でした。母はその数年前から癌と闘っていましたが、本当に状態が悪くなるまで、私は母が死ぬなんて思わなかった。少し変な言い方になりますが、当時は自分が死ぬことを想像することはあっても、親がいなくなるなんて考えたこともなかったのです。どうしてか、親はずっとずっと、当たり前に生きているものだと思っていた。

やがて母に死の瞬間が訪れ、その後、私は大きなグリーフを抱えることになります。
母の死は私にとって世界がひっくり返るような出来事でしたが、世界はちっともひっくり返っていなくて、それまでと変わらずに動き続けました。生まれ育ったはずの実家は知らない人の家みたいによそよそしく感じられ、母でしか埋められない穴が開いてしまった身体は思うように動かず、心はひたすらに母を求めて涙を流し続けている。

幸運なことと言っていいと思いますが、当時の私の周りには、同世代で身近な人を亡くした経験のある人がいなかった。

大丈夫、私たちがついているからね。
だからそんな暗い顔してないで、早く元気になって。
お母さんを悲しませないように頑張りなさい。
一緒に乗り越えようね。

どれも優しさからの言葉だとわかっていても、私はどんどん追い込まれていきました。
話せない。話しちゃいけない。笑っていなくちゃいけない。頑張らなくちゃいけない。それまでの日常を早く取り戻さなくちゃいけない。乗り越こなくちゃいけないんだ。
どうしようもない孤独感の中にいるのだけれど、それすらいけないことのように思えてしまう。

もしかしたら当時の私以上に、いろんな想いを抱えたまま、周囲の前では笑顔を作って頑張っている若い人がいるかもしれません。
死別の経験はあまりにも大きな出来事だから、周りを困らせないように、そして哀しみに巻き込まないように必死になっている。
どうせわかってもらえないという落胆もあります。「昨日母親と喧嘩してさぁ」なんて聞かされると、喧嘩できることが羨ましかったり妬ましかったり。そしてそんなふうに思ってしまう自分を責める。私の時間は母が死んでしまったところから全く動いていないのに、周りにとってはどんどん過去になっていて、過ぎた出来事の一つになっていく。そこに憤りや苛立ちや焦りを感じても、口に出す場所がみつけられない。そして自分ですら、そんな自分を否定してしまう。

10代での死別ともなれば、自分以外の家族が抱える哀しみとも直面しますので、本来なら誰よりもわかちあえるかもしれない家族にこそ言えずに、やりたいことや将来の夢を諦めて、自ら親の役割を担っている場合があるかもしれません。
それ以前に、「死について語る」ことが怖かったり、どう接すればいいのかわからなかったりすることで、結果的に周囲が死の話に触れることができず、当人は余計に自分の中だけで哀しみを抱えざるを得ない状況になっている可能性もあります。


オンラインによる若い方(10代~20代)を対象にしたわかちあいの会
https://www.ieruba.jp/WTE/site.cgi?m=coulstfrm&limit=20&offset=0&sort_key=fee


若い世代にグリーフケアを伝える機会を

前記したように、大きな喪失や死別を経験した若い人は孤独に陥りやすく、その方々にグリーフケアがある、わかちあう場があると知っていただく意味は大きい。若くして死別を経験された皆さんに向けて、今後、どういった言葉を使って発信していくかは、これからの大切な課題と感じています。

10月末、千葉県の成田北高校の生徒さんたちに、グリーフケア研修が行われました。彼らは今後、医療や福祉の現場で働くことを目指しています。そんな皆さんに、協会の井手代表がどのようにグリーフケアを伝えるのか、そして聴講した生徒さんたちがどのようにそれを受け取るのか、私も胸に焼きつけたく同行させていただきました。

「グリーフやグリーフケアという言葉をはじめて聞いた人は?」という投げかけに、ほぼ全員の手があがっていたように思います。死別以外にもグリーフにつながる経験があること、グリーフになるとどんな影響が起こるのか、哀しみの触れ方……。
私は教室の一番後ろから全体の様子を見せていただいていたのですが、時間を追うごとに講師の話に引き込まれていく生徒さんたちの熱気が肌で感じられました。
グリーフの影響を知っていただくためのワークでは身体を少し動かしてもらったのですが、普段あまり経験しない動作に、学生さんらしい盛り上がりを見せながらも、グリーフの困難さを体感覚で味わい、ぐっと我が事として考えていただくことができたように思います。
テキストの隙間にびっしりとメモ書きされていたり、感想を書くための用紙も早くから文字で埋まっていたり。講義が終わってからも、校長室まで来て講師に質問をぶつけてくれる生徒さんが複数おり、その真剣さに胸を打たれました。

後日届いた彼らからの感想には、今の生活の中で活かしていきたいという気持ちや、就職してからも忘れたくないという想い、もっと勉強してみたい、周りの人にもグリーフケアを知ってもらいたいなど、私たちももっともっと頑張りたいと思わせてくれるような言葉が溢れていました。
中には自分の経験を振り返り、その時の想いや痛みを綴ってくれた生徒さんもいました。

喪失や死別の経験がなくとも、わからないからこそわかりたいと思う力は本当に尊いものだと思います。そんな生徒さんたちの姿を見ていたら、大人が配慮だと思ってやっていることの一部が、逆に若い世代の瑞々しい感性や共感する力を奪うことにつながりかねないのではないかと、わが身を顧みて反省もしました。
少なくとも彼らは、死別や死について想いを馳せることから逃げず、真正面から向き合ってくれていた。そして真剣にわかろうとしてくれていた。

当協会のグリーフ専門士・ペットロス専門士養成コースを学んでくださる方の中にも、自分には喪失の経験がないのだけれど…、そんな私がこの場にいていいのだろうかと話される方が少なからずおられます。
グリーフケアの知識は、グリーフを抱えた方たちの道しるべとなり得ますし、同時に、そのような経験がない方が学ぼうとされる尊い気持ち、それがあたたかい社会を広げていくためには不可欠のように感じます。
そして経験がないとおっしゃる方の中にも、学びを進めていくうちに、これまで蓋をしてきた想いに気づかれる瞬間があります。人生はグリーフの連続。死別に限らずとも、様々な経験のうちに知らずと抱えるものがあっても不思議ではありませんね。
自分だけがつらいんじゃない、もっとつらい経験をした人が世の中にたくさんいる、そんなふうに抑え込んできたもの。周りからの悪意のない励ましによって、口にできなくなってしまった気持ち。忙しない日々の中で、置いてきぼりにしてきた感情。
グリーフケアから死というテーマに触れることで、自然と自分の内側をみつめて、生を考えていく時間となっていくようです。

まっさらな気持ちでグリーフケアを捉え、等身大で感じたことを伝えてくれた高校生たち。彼らの姿に私たち大人も学ぶことがたくさんあるように感じました。何か大きなことをいきなりはじめようとするのは大人だって難しい。高校生からでもできることはありますか……。そんな問いかけがありました。今、目の前にいる友人を想い、家族を想い、自分事として考える彼らの姿勢、それこそがグリーフケアの原点だと改めて教わったような気がしています。
末尾になりましたが、今回貴重な機会をくださった成田北高校の校長先生をはじめ諸先生方に、この場をお借りして感謝申し上げます。協会代表の講演を別の機会に聴講くださった校長先生自ら、これは生徒たちにもぜひという想いで企画してくださったとのこと。
そして次年度以降も、グリーフケアを授業に組み込みたいとご依頼くださいました。
本当にありがとうございました。


日本グリーフ専門士協会は、企業、自治体、学校などさまざまな対象、世代や職種に合わせての研修をおこなっております。下記よりお気軽にご相談ください。

https://grief-japan.net/activities/lecture/ 
(グリーフケア講演・研修/オンライン・オフライン対応)


編集後記

今日も最後まで読んでくださりありがとうございます。
日本グリーフ専門士協会公式Twitterがスタートしています。

https://twitter.com/grief_petloss

わかちあいの会や講座の情報、ブログの更新や全国の専門士の動向などをお知らせしつつ、担当の胸の内などもつぶやいていく予定です。
今回のテーマでもある若い世代に向けても、キャッチしやすい発信に努めたいと思います。


オンラインによる「わかちあいの会」(無料)・個人カウンセリングの日程確認とお申し込みはIERUBAへ。

また、グリーフケアを学ぶ第一歩「グリーフケア/ペットロスケア入門講座」も無料で開講しています。支援者として活動したい方はもちろんのこと、グリーフの渦中におられる方にもご参加頂いております。今のご自分の状態を、少し客観視できるようになるかもしれません。私もここから学びはじめました。