グリーフケアの風景 Landscape
入門講座の担当講師に話を聴いてみた② 先崎直子講師 前編
こんにちは。グリーフ専門士、寿月です。
今回は入門講座講師インタビュー第二弾として、ペットロス専門士養成コース(入門~マスターまで)を担当されている先崎直子講師にお話を伺いました。
今は犬猫を飼っている人が15歳以下の子どもの数より多いといわれ、ペットロスという言葉も周知されて久しいですが、その実態を知り、当たり前のこととして受け入れていく社会づくりには時間がかかっているように思います。
ペットという表現に違和感を持たれる方がいるくらいにその距離が近くなっている動物たちとの死別は、人との死別と同じく、あるいはそれ以上に複雑になってしまう要因を含んでいる場合がありますね。
ペットロス専門士養成コースは、ペットロスケアを深く具体的に学んでいただける講座となっておりますが、先崎講師がどのような気持ちで講座と向き合っていらっしゃるかなどお聴きしておりますので、受講ご検討の際のヒントにしていただけたら嬉しいです。
*協会では横のつながりを大事にする意味もあり、それぞれが呼ばれたい名を提示しています。先崎講師のことは、なおこさんと呼ばせていただいていることをお伝えしておきます。
それでは今日も書き進めていきましょう。
全ての人に理解されない難しさ
なおこさんは当協会ペットロス専門士養成コースを一手に担当されながら、獣医師として臨床に携わり続けておられます。さらには協会認定ペットロスカウンセラー・グリーフカウンセラーとして個人カウンセリングを受け持つとともに、ペットロスわかちあいの会のファシリテーターとしても活動されています。そしてこれは専門士対象の企画ではありますが、『グリーフ絵本の朗読会』を仲間と一緒に定期的に開き、日々それぞれの持ち場で頑張る専門士たちに癒しの時間を届けてくださっています。
対外的なご活躍も広く、動物に関わるお仕事をされている方を対象としたプロフェッショナルグリーフのわかちあいの会の開催、地域での飼い主同士のコミュニティづくりなどにも力を注がれています。
――獣医を目指したきっかけを教えていただけますか。
物心ついた頃から動物が好きでした。実家は大家族で母はいつも忙しくしていたので、あまり構ってもらった記憶がない。そんなこともあって、共に暮らしていた文鳥やセキセイインコとの触れ合いが私にとって大事な時間だったんです。少し大きくなってからは犬とも暮らせるようになってすごく嬉しかった。
小学生の時、母に「動物に関わる仕事って何がある?」と訊いたら、「獣医という仕事があるよ」と教えてくれて。小学校の卒業アルバムにも将来の夢として獣医さんと書いています。それが叶って今があるという感じです。
――グリーフケアを学ぼうと思われたのは?
動物病院での仕事は、病気にならないための予防と病気になった時の治療がメインになります。とても忙しいので、飼い主さんの悩みや不安を聴く時間がどうしても限られてきてしまう。
そして、動物たちの死を数多くみていくスタッフもまた、グリーフを重ねていくことになります。他の子たちもいるので、全てを正面から受け止めることができず、また、正面から受け止めるとつらくて動けなくなる。だから蓋をしたまま仕事を続けて、気がつくと仕事に行くのがしんどくなって、辞めてしまう人もいるくらいです。
私は飼い主さんのお気持ちに寄り添ったり、動物と関わる仕事をしている人のケアを大切にしたいと感じてきました。それで仕事をしながらいろいろ学んでいく中で、日本グリーフ専門士協会にたどり着いたんです。
――なおこさんがはじめられるまでは、協会にはペットロスに特化した講座はなかったわけですが。
そうですね。マスターコースまで学んだ後に井手代表から声をかけていただいて。いろいろお話をさせていただく中で、これは講座としてしっかりした形でお伝えしていく必要があるんじゃないかということになったんです。
現在110名が受講され、ペットロス専門士の資格を取得いただいています。
――ペットロスをグリーフのひとつとして扱うのではなく、独立させるだけの難しさ、あるいは違いがあるということでしょうか。
人と人ではなく、人とペットだから得られるものがあると思います。
純粋な関係性、無償の愛、喋れない中で評価されない安心感、心地よい関係性、ペットによってはふわっとしたぬくもり、お世話することで自分が必要なんだと思えることなど、今あげたものはほんの一部ですが、ペットとだからこそ得てきたもの、そこを理解できないと、その方が何を失ったか、何を失っての哀しみなのかがわかりづらいのではないでしょうか。
それから、飼い主は無意識にですがその子に対する全責任は自分にあると感じている。だから何かあった時は全部自分の責任だと思いやすいんです。長く深く自分を責めてしまうことも多い。
――ここで私の経験を一つお話しさせていただきますと、とても動物好きで保護活動などもしている友人がいるのですが、その彼女が共に暮らしている猫ちゃんを亡くしたときに「ペットが亡くなったくらいで……」と落ち込みが深い自分を責めるようなことを言っていて、私、すごく驚いたんです。なんというか、ペットロスの理解のされづらさ、その底の深さを垣間見た気がして。
動物を愛してやまない彼女ですらそんなふうに自分を責めてしまうのだから、動物が苦手だったり共に暮らしたことのない人たちが、理解できないのも納得してしまうというか。
そうなんです。ペットを飼ったことない方にモチベーションを感じていただくにはどうしたらいいか、難しいところではありますね。でも今は動物たちと暮らしている人が多いですから、自分は飼っていないという人の周りにも遠からず共に暮らしている人がいると思うんです。その方たちがたとえば大切な子を亡くされた後などに、悪気なくかける言葉でお相手を傷つけてしまう場合もあります。関係にひびが入ってしまうこともよく聴く話です。
体感的にはわからなくても想像していただく、慮っていただくのが大事なところで、講座内容もそのあたりを踏まえ工夫しています。
どの立場の方にも、ペットロスを学ぶことの意味を感じていただけるように
――わかりたいなとか、どういう言葉かけをしたらいいのかなと思っていただくことが一歩のように思いますね。
では、無料で開催されている入門講座ではどのようなことが学べるのでしょうか。
人とペットの関係性について、人とペットの間にあるものに触れていただく。そして、グリーフとしてのペットロス、どのような状態になる可能性があるかということもお伝えしています。
――ベーシックコースなどの本講座ではさらにそこを深めて、安楽死の選択など死別以前からの難しさも学びますね。私も受講させていただきましたが、自分のグリーフと向き合うことももちろんですが、本当に考えさせられる、時に悩ましさに直面するような時間でした。
講座にはどのような方がご参加くださっているのでしょうか。
割合として多いのはご自身がペットロスでおつらい中におられる方、さらに、その痛みが癒えてきているからこそ他の方の力になりたいと考えておられる方ですね。
それから今いるペットが亡くなることを考えるとつらくて、そこに向き合っていくにはどうしたらいいかと思われてのご参加も多いです。
あとは動物に関わるお仕事をされている方。病院では亡くなった後に関わるのは難しいのですけれども、お看取りの場面も多いので、納得のいくお看取りをしていただくよう関わるためにもグリーフの知識を活かしていただけると思います。
そして、人の介護や看護の仕事をされている方なども来てくださっていますね。患者さんや利用者さんでペットと暮らしている人がたくさんいて、ペットと離れて療養しなければならないとか、利用者さんとのやり取りでペットへの想いを聴くことが多いなどで、そのお気持ちを理解したいと学んでくださっています。
――講座で心掛けていること、大切にしていることをお聞かせください。
これまでお話してきた通り、ペットロスってご自身の経験として体感されたことがある方とそうではない方、動物が好きな方も苦手な方もいる中で、響き方が全然違う。
どういう目的があって受講されているかもまちまちなんですが、それぞれの立場、それぞれ抱えたものがありながら受講してくださっていることに感謝の気持ちを持って、できるだけどのお立場でもペットロスを学ぶことの意味を感じていただくよう努めています。
そしていつも一番大事にしているのは、受講された後に気持ちがあたたかくなるような、ホッとしてもらえるような時間になればと心掛けています。
次回、後編に続きます。
編集後記
今日も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
このブログを担当させていただくようになってからずっと新人グリーフ専門士と自己紹介させていただいてきたのですが、今回の更新にあたり「そろそろ新人は取りませんか」と井手代表からお声がかかりました。自分ではまだまだ新人のつもりでいるものですから戸惑いもありましたが、いつまでも「新人」という言葉に甘えているわけにはいかないなと、恐縮しながらはずしてみることに。
協会サイトも新しくなり、ブログも皆様により親しんでいただけるものに育てていけるよう、初心を大切にしながら進んで参りたいと思いますのでこれからもよろしくお願いいたします。
日本グリーフ専門士協会では「わかちあいの会」を無料開催しており、全国どこからでもご参加いただけます。お申込みいただきましたら、ZOOM(オンライン会議システム)の使い方等もメールで案内させていただきますのでご安心ください。
また、グリーフケアを学ぶ第一歩「グリーフケア・ペットロスケア入門講座」も無料で開講しています。支援者として活動したい方はもちろんのこと、グリーフの渦中におられる方にもご参加頂いております。今のご自分の状態を、少し客観視できるようになるかもしれません。私もここから学びをはじめました。