グリーフケアの風景

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グリーフの渦中より

それでも生きるために大切なこと

それでも生きるために大切なこと

こんにちは。新人グリーフ専門士、寿月です。今日も書き進めていきますね。

全部が疲れている

大切な人や身近な人を亡くした哀しみを表現するのに「身体の半分をもぎ取られたようだ」などという場合があります。精神的なつらさのたとえとして使われることも多いですが、実は、身体が近しい状態になっている可能性があることをご存じでしょうか。

では、身体の半分がもぎ取られたとはどんな状態でしょう。試しに、ほんの数分でも片足で移動してみると掴みやすいかもしれません。これは私たち専門士の学びでも初期の頃にやってみるのですが、とっても疲れます。身体が重く不安定で、頭はクラクラしてくるし、私なんかは数歩で息があがります。バランスが崩れるせいか、ちょっと気持ち悪くなったりもする。軸にしている足に痛みがでるかもしれないし、思いもよらない箇所の筋肉や筋が悲鳴をあげることもあるでしょう。まるで自分の身体じゃないみたいに、コントロールが効かない気がする。動ける範囲は狭く小さくなっているのに、疲労は倍以上です。
そんな状態の中で、それ以前と同じように仕事をしたり家事をしたり、あるいは子育てをしたりが可能かどうか。

直後は持ちこたえていることもあるでしょう。私の場合もそうでした。むしろ過剰に動きまわって、急ぎじゃないことまでやろうとしていた。身体もなんとか動くのです。動くことで心をごまかす。もっと疲れれば眠りやすくなるかもしれないと期待する。でもどんなに疲れきっても、ベッドに入ると目が冴えてくる。逆に過眠になられる方もいるようです。寝ても寝ても眠気がとれず、日中の行動に支障がでてしまう。
突然のめまいに戸惑ったこともあります。ある朝身体を起こすと、視界がぐるぐる回転していました。数秒で落ち着いたので立ちあがりましたが、なんとなくずっと違和感がある。頭を動かすたびに、目の前がブレるのです。高いところにある物を取ろうとした時などは顕著でした。私は数日で落ち着いたのでそのままにしていますが、自己判断せず、早めに受診したほうがいい場合もあるでしょう。
両瞼が、試合後のボクサーのように腫れたこともありました。これも突然です。黄砂が飛んでいた時期なのでおそらくアレルギー反応だと思うのですが、はじめてだったので驚きました。その他にも、何を食べても味がしないとか、そもそも食欲が全くないとか、そこそこの傷ができていても気づかない(痛覚が鈍くなっている)とか、喉が締めつけられているみたいな息苦しさなど、いろいろありました。
いずれにせよ、座っているだけでもしんどいような疲労感が抜けないままにずっとあって、そこにあらゆる状態が上乗せされていくのです。

我が家は徐々に荒れていきました。いろんな書類や文具、電話の子機や洋服なんかがあちこちに散らばっている。ちょっと手を伸ばせば棚があるのに、あるいは少し歩けば届くのに物を戻すことができないのです。掃除機を引っ張り出して、コンセントを入れたところで力尽き、結果、それも出しっぱなし。涙をぬぐったティッシュがテーブルの上に山になっている。部屋中が、まるで子供が遊び散らかした後みたいになっていく。お風呂はかびてくるしトイレは黒ずんでくるし、ゴミはゴミ箱から溢れ、焦がした鍋がシンクの中で水に浸かったまま。
死別直後には出来ていたことが、どんどん出来なくなっていくという感覚でした。不思議ですよね。普通は、徐々に回復してくると考えます。私もそうでした。でも実際は、動けなくなっていったのです。
脱ぎ散らかした服を拾い集めて洗濯機に持っていこうとし、途中で座り込む。動悸が酷くて、埃が舞う廊下に寝転ぶこともありました。見上げた天井のいたるところに蜘蛛の巣がはっている。情けなくて涙が滲みました。冷蔵庫が空っぽでも買い物に行く気力もなく、気力を補うはずの体力もない。

グリーフの時って、身体がとか心がとか脳みそがとかではなく、もうその全部が疲れていて、訳のわからない状態なのです。そしてそれ自体とても苦しいことなのだけれど、周りや、自分自身がその状態を受け入れられずにいることで、つらさを長引かせてしまう可能性があります。

なんでこれくらいのことができないの?
まだできないの?
いつまでできないの?

これくらいならできるんじゃない?
甘えてるだけじゃないの?
そろそろ普通にならなくちゃ。

はやく元気だしてね。
子どものためにもしっかりしようよ。
これは仕事なんだからさ。

こんな言葉を誰かから、あるいは自分からかけられたことはないでしょうか。全部が疲れている状態がいつまで続くのか、一月なのか半年なのか一年なのか、あるいはもっと長いのか。それは人それぞれであり、誰にもわからないことです。何年もしてから、ぽこっとそういう状態が現れる人もいます。
自分や周りがその状態を否定してしまうことで、いつまでたっても本当の意味で休めないどころか、どんどん追い詰めてしまう。

全部が疲れている状態で生きるために大切なことを、3つお伝えしておきますね。

・無理しない(自分を優先する)
・焦らない(決断や結果を急がない)
・妥協しない(幸せになることを許す)

まずは身体を休めましょう。眠れないのであれば、薬を処方してもらうのも一つの方法です。眠らなければ、体力はどんどん落ちていきますから。そしてやることをできるだけシンプルにして、「あえてやらない」自分を許す。そうしていると、今日はちょっとだけ動けそうだぞという日が出てくる。次の日はまた動けないかもしれないけれど、落ち込む必要はありません。長い目で見れば、緩やかに回復していく過程の一部なのですから。ありのままを受け入れていれば、やがて動けるタイミングがやってくるはずです。

もう二十年近く経ちますが、母が亡くなる前に、夫に伝えていたことがあります。
「亡くなった後、そろそろ立ち直れとか、いい加減しっかしろとか言わないで」
夫はそれを紙に書き、自分の仕事部屋に貼っておいてくれました。そしてその時が来た後は、約束を守ってくれました。きっと夫が予想していたよりも長く、私は全部が疲れた状態にあったと思います。幼い子供もいたので、夫にとっても過酷な日々だったでしょう。それでも夫は、ただの一度もその類の言葉を私に投げませんでした。言いたかっただろうし、それが態度に出ていたこともあったけれど、言葉にしないでいることは並大抵の努力ではなかったと思います。
このように、グリーフケアを知らないままに過ごす死別は、当人にとってはもちろんのことですが、その家族にも負担のかかるものになりうる。だからこそ当人は自分を責めるし、焦ります。申し訳なさで一杯になります。
グリーフは病気ではありませんが、甘えでもありません。思いもよらない状態になっていることに、自分でも戸惑っているのです。家族も同じように戸惑い、不安になっているかもしれない。それぞれに抱えたものを口に出せず、余計に苦しい状況に陥ることもあるでしょう。

自分だけでなんとかしようとすることも、家族だけでなんとかしようとすることにも限界があります。もちろん、仕事や趣味や友人などが活力になることもあるし、それらが支えとなってくれることも多いでしょう。私の場合で言えば、それがグリーフケアの学びであり、共に学んできた仲間たちでした。とにかくあらゆるつながりを利用して、ヘルプの声をあげ、自分のありのままの状態を受け入れていくことからはじめませんか。
あなたはもう、じゅうぶんに頑張っているのですから。

そして、周囲には何ができるのでしょうか。
一概に仕事量を減らせばいいというものでもないし、また、いつまでサポートが必要かもわからない。状態は人それぞれゆえに、これという正解がないのが難しいところかもしれません。まずはご本人の状態に、耳を傾けていただければと思います。そのうえで、何が助けになるのかを共に考えていけるといいですね。
死別直後はもちろんですが、間をおいて影響が出てくる可能性もあります。その場合はきっと、ご本人が誰よりも戸惑っておられるでしょう。そんな時、周囲が理解を示してくれたらどれだけ心強いか。

当協会では、企業様向けの研修などもおこなっております。(オンライン研修可)
多くの方にグリーフの理解を深めていただくことこそが、グリーフケアの第一歩であると考えているのです。
昨今の情勢や、様々なご事情を踏まえ柔軟に対応させていただきます。
まずはお気軽にご相談ください。

 

編集後記

今日も最後まで読んでくださりありがとうございます。

日本グリーフ専門士協会では「わかちあいの会」を無料開催しており、全国どこからでもご参加いただけます。お申込みいただきましたら、ZOOM(オンライン会議システム)の使い方等もメールで案内させていただきますのでご安心ください。

また、グリーフケアを学ぶ第一歩「グリーフケア・ペットロスケア入門講座」も無料で開講しています。支援者として活動したい方はもちろんのこと、グリーフの渦中におられる方にもご参加頂いております。今のご自分の状態を、少し客観視できるようになるかもしれません。私もここから学びをはじめました。