グリーフケアの風景

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グリーフの渦中より

楽しい思い出の行き場所

楽しい思い出の行き場所

こんにちは。新人グリーフ専門士、寿月(としつき)です。
皆さん、年末年始はどう過ごされましたか。わかちあいの会にご参加くださった方からはこのタイミングで開いてくれてありがたいというお言葉も多くいただいたとのことで、私たちもこの時期の会をさらに増やしていく必要性を嚙み締めているところです。
今後もより一層力を入れていければと思っていますので、よろしくお願いいたします。

それでは今日も書き進めていきましょう。

楽しかった思い出をどうしていますか

亡くなった人との大切な思い出。笑い合ったこと、日常の些細なやりとり、旅行やイベント。あの人は……、あの子は……、こんなことで笑い、こんなことで腹を立てたとか、この番組が好きだった、このおかずが好きだった、こんなプレゼントをしてくれた、運動会での様子、どんな素敵な笑顔で笑っていたか、お腹をどれだけ強く蹴ったか……、毎日当たり前に過ぎていく日々の中に、数限りなくあった幸せな瞬間たち。

死別後は哀しみに押しつぶされ、様々な状態に翻弄されます。自分を生かしておくだけで精一杯かもしれません。
起き上がれない自分、動けない自分、食べられない眠れない自分。笑い方も忘れ、喜びも楽しみも忘れ、どうしてあの人は死んでしまったのだろう、これからどう生きたらいいか、生きていけるのか、私は……私は……私は……。
抱えきれないほどの苦しみ、言葉にもできないような辛さやしんどさと向き合わざるを得ない中でふと浮かんでくる幸せな記憶が、余計に痛みを募らせる要因となってしまうこともあるでしょうか。

一方で、深い哀しみの中にいながらも、楽しい思い出こそ語りたいと思われる方もおられます。でもそういう話題だからこそ話す場所がみつけられない、あるいは、周囲も触れることに遠慮してしまうなんてことがあるかもしれません。

私は夫の葬儀が終わっての夜、夫(お骨)を抱きしめながらこんなことを思いました。

「みんなと笑い合えばよかった」

みんなと言うのは、葬儀に参列してくれた夫の母や妹弟たち、そして息子です。葬儀が始まる前に夫を囲んでいた時間、お骨になるのを待つ間、彼のことを、私の記憶を、楽しかった日々をみんなに聴いてもらえばよかった。あんなところにもこんなところにも二人で行って、行き来の車中ではこんなやり取りがあってとか、些細な言い間違いで大笑いしたこと、CMに犬が出てきただけでウルウルしちゃうような涙もろい一面、毎日手をつないで散歩したこと、そこでのくだらないやり取り。
膨大な記憶を一つ一つ紐解いて並べたい。誰かの中の彼の記憶も全部聴きたいし、自分のもののように大切に噛み締めたい。息子から見た父親としての彼、母から見た息子としての彼、笑っちゃうエピソードではゲラゲラ笑いたいし、のろけたいし、抱きしめたい。
その場で思いつけなかったことを、とても後悔しました。
病気になって、亡くなってしまったことは夫のごくごく一部です。とても頑張ってくれた。二人で駆け抜けた闘病の時間は愛おしくもありますが、それ以外の膨大な時間の中にこそ、本当の夫がいるように思うのです。家族の時間がそこにある。

語る場や時間が欲しい

非常事態宣言が解除されている現在においても、先行きが読めない状況が続いています。その中で死別後の様々な儀式も簡略化され、近しい人たちとの思い出のやり取りすら思うようにならない場合もあるでしょう。何より、日々グリーフを抱えながら、毎日毎日を誰にも会えずに過ごす人も多くなっています。会えない=語れないという時代ではないにせよ、死別という強烈な事態に直面した後の私たちにとってこのコロナの状況は、ある一面では孤独を深める原因の一つになっていますね。

わかちあいの会では、哀しみしか語れないわけではありません。皆さんが辛いお気持ちをを吐露されているのに、自分だけ笑顔で話しをするなんて、と思う必要もありません。それぞれがそれぞれの気持ちを尊重し、大切にする場づくりを心掛けておりますので、遠慮なくお話しされたいことを語っていただければと思います。

それとは別に、現在までに「楽しい思い出を語る会」というものを2度開催しております。現時点では、パートナー死別の方を対象としておりますが、参加された方からは、こちらが勇気づけられるような感想をいただいておりますので、今後様々に展開していけるといいなあと個人的には思っています。
通常のわかちあの会とは違い、語るテーマをサイコロトークのように選べたり、質問することもOKだったり。参加された方から開催時期や進め方など要望をいただきながら、これからも形を変え、成長していくのではないかと思います。
もちろん通常のわかちあいの会同様にパスの権利(話したくないこと、答えたくないことは無理に話す必要はありません)もありますし、聴くのがしんどいという時は、画面を消していただいてもかまいません。

私も一度参加させていただきました。実は私は、今現在においても夫との楽しかった思い出をちゃんと取り戻していません。語りたいタイミングを逃したからなのか、闘病期の記憶が強烈すぎるのか、心の防御反応なのか。夢の中ですら、元気な頃の彼の姿を見ることができていません。記憶が消えたわけではないと思いたいけれど、鮮明に思い出そうとしても思い出せない状態です。時々ふと、たとえば似たような場面に出くわした時などに浮かびかけることはあり、手を伸ばして掴もうとするんですが、指の間をすり抜けるようにしてすぐに深いところに沈んでいってしまうのです。
だから皆さんのお話を聴かせていただくことが、何かこう、呼び水みたいになるといいなあとも思っていました。そんなふうに聴くだけの参加もOKですよ。
会はまったりとした雰囲気の中、笑顔あふれる時間となりました。それでいて涙が滲むくらい胸が熱くなるような瞬間もあり、こうした時間を持つことで、死別した後もその人との新たな思い出を築いていけるということを噛み締めました。ご一緒させていただいた皆さん、本当にありがとうございました。

このパートナー死別対象の楽しい思い出を語る会。次回はバレンタイン前後を予定しております。お知らせがギリギリになってしまうかもしれませんが、参加してみたいと思われた方は、時期が近づいて参りましたら協会サイトを覗いていただけますと幸いです。
そして大事なことなので繰り返させていただきますが、通常のわかちあいの会でも、哀しい話をしなければいけないわけではありません。心温まるようなエピソードであったり、時には怒りであったり、言葉にならないようなその想いを、その時その時お話しされたいことをお聞かせください。日常の中の、せめてその時間だけでも自分を尊重して、大切にして過ごしていただけるよう、私たちも精一杯努めて参ります。

編集後記

今日も最後まで読んでくださりありがとうございました。当地は先日思いがけず雪が積もり、次の日の朝はどこもかしこもツルツルでした。雪のある風景を写真に撮ろうと散歩にでてみたもののすぐにUターン。目玉が凍るかと思うくらい寒かったです。
1月2月と寒さはますます厳しくなるでしょうか。皆様どうか、ご自愛くださいませね。

日本グリーフ専門士協会では「わかちあいの会」を無料開催しており、全国どこからでもご参加いただけます。お申込みいただきましたら、ZOOM(オンライン会議システム)の使い方等もメールで案内させていただきますのでご安心ください。

また、グリーフケアを学ぶ第一歩「グリーフケア・ペットロスケア入門講座」も無料で開講しています。支援者として活動したい方はもちろんのこと、グリーフの渦中におられる方にもご参加頂いております。今のご自分の状態を、少し客観視できるようになるかもしれません。私もここから学びをはじめました。